① 肝炎ウイルスに関する研究

B型肝炎ウイルスの感染機構の解明(参考文献, Kouwaki et al. JVI 2016)

B型肝炎ウイルス(HBV)は、日本国内でも200万人、世界には2億人以上もの感染者がいると言われています。治療法としては逆転写酵素阻害剤が用いられ、ウイルスの増殖をコントロールすることはできるようになってきましたが、根治ではありませんので、生涯お薬を服用する必要があります。私たちは、HBVが増殖するために重要な宿主因子としてJMJD5という遺伝子を発見しました。JMJD5によるHBV増殖のメカニズムや病原性発現への影響を検討しています。

 

C型肝炎ウイルスの病原性発現機構の解析 (参考文献, Aizawa et al. Nat Commun 2016, Hirano et al. PNAS 2017)

C型肝炎ウイルス(HCV) のコア蛋白質は感染性ウイルス粒子を形成するカプシド「殻」としての働きがあります。さらに、コア蛋白質を肝臓で発現するトランスジェニック(CoreTg)マウスは脂肪肝を経て、肝細胞癌を発症することから、コア蛋白質は粒子形成だけでなく病原性発現にも関与していると考えられています。HCVのコア蛋白質は、宿主のシグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)によって切断されて成熟することが知られていました。私たちは、SPPによるコア蛋白質の成熟化が肝疾患に与える影響を検討しています。

 SPPによるコア蛋白質の切断は、HCVだけでなく同じフラビウイルス科のペスティウイルス属のウイルスにも保存されています。一方、日本脳炎ウイルスやデングウイルスに代表されるフラビウイルス属のウイルスでは、コア蛋白質の成熟は宿主由来のSPPではなく、ウイルス自身のプロテアーゼによって切断されることが知られています。この様にフラビウイルス科のウイルスでは、コア蛋白質は前駆体蛋白質からシグナルペプチダーゼによって切り出され、更にSPPやウイルスプロテアーゼによって切断されて成熟しますが、そのウイルス学的意義は不明です。コア蛋白質・SPP・肝疾患を検討し、コア蛋白質の2段階切断のウイルス側の意図を知りたいと思っています。